学会について 新情報コーナー 出版物 入会案内 行事案内 防除士会について 質問コーナー
最新ニュース一覧
新刊紹介
新刊紹介
博物館・美術館の生物学 カビ・害虫対策のためのIPMの実践
川上裕司・杉山真紀子 著
B5判,174頁,¥4000+税(雄山閣,2009年8月31日刊)

 本書は,本学会会員2名の執筆によるハードカバーの専門書である.博物館・美術館に所蔵されている,美術品や文化財の真菌(カビ)や害虫による生物的被害を抑制するための方法を,基礎からIPMを実践するまでを紹介している.類書としては,過去に害虫防除を中心にした「博物館の害虫防除ハンドブック」(杉山真紀子 著 雄山閣,2000年)や「文化財害虫事典」(東京文化財研究所編 クバプロ,2001年)が出版されている.

 メインタイトルは「博物館・美術館の生物学」であるが,本書はカビと昆虫による文化財,美術品の生物的被害防止が中心である.特に,過去の類書で扱われなかった,あるいは扱いが少なかったカビ対策に力点が置かれている.一方,鳥やネズミなど野生鳥獣による害と建築物や設備等から発生する化学物質や照明等の生物ではない物による影響は,本書では扱っていない.本書では文化財,美術品の生物的被害に関わるカビと昆虫の知識と検査法を詳しく載せている.口絵のカラー図版による真菌の培養写真や昆虫の写真に著者の意気込みを感じる.特に,真菌については分類の説明,類似種の識別図版,実践的な調査法がまとまって示されている.室内環境中の真菌や細菌などを扱った「環境微生物の測定と評価」や「カラーアトラス環境微生物」(山崎省二編 オーム社)といった類書以上に実用的で,これだけで「室内環境における真菌調査法」として完結した内容である.昆虫とダニの解説については,昆虫の分類の基礎に続き,博物館・美術館で発生し被害を与える可能性のある昆虫などが写真,図版で紹介される.掲載される昆虫等の種類と図版数については,「文化財害虫事典」に譲るが,コンパクトにまとまっている.できれば,美術品や文化財の実際の被害例が写真等で示されるとより理解が深まるのでは思われた.その後にIPMの紹介,IPMの実践,IPMの防除法として薬剤による対策,物理的な対策,そして,建築的な対策を掲載している.これらは「博物館の害虫防除ハンドブック」で記述された内容を,精査しポイントを絞って平易に記述したものと思われる. IPMの実践は温度湿度管理とIPMにおける調査法と実践的なチェックリストに基づく管理方法の提示であり,実用的である.IPM(薬剤,物理的,建築的)の手法は,既存の博物館・美術館でできる対策に主眼においている(当然であるが)が,今後はIPMに基づいた生物的被害防止構造の博物館・美術館の建築計画の提示も望まれる.

 本書が主にターゲットとしている読者は,博物館・美術館の学芸員や管理担当者と思われるが,こういった関係者がIPMの調査や生物的被害の検査を依頼する際に,本書の内容は重要である.しかし,カビと昆虫については,分かりやすく説明をしているが,生物的な素養のない方が理解し,調査や同定を実践できるかというとなかなか難しいかもしれない.

 本書の実用性のひとつとしては,ある程度の知識を持った関係者がカビと昆虫の調査や検査同定および報告書等の作成のための副本として利用することであり,巻末の豊富な参考文献は,調べ物をする際や理解を深めるために役立つ情報源になると思われる.

(中野敬一)
    Site Map    Contact Us